【ひとこと】

 以前、同じ職場にいたYさんはGと2日違いの誕生日でした。その彼女がある日やって
きて、にこにこ笑いながら
 「Gさんの誕生日って、4月22日でしたよね。誕生プレゼントに何かあげますから、
私の誕生日にケーキ作ってきて下さい」
 彼女は赤いチェックのエプロンをプレゼントして下さいました。(どうも、下心が見え
るような気が...^^;)
 そして、2日後の4月24日。苺のタルトと一緒にプレゼントしたのが、このお話です。

             誕生

 どこか遠くの空で雲雀が鳴いていた。ひんやりとした風が草の匂いを運んでくる。暖か
い日差しが一面の野原を優しく包み込む気持ちのいい午後だ。
 わたしは土の上に寝転がって、流れていく雲を眺めていた。虻が一匹、私の鼻先で輪を
描いてまたどこかへ翔んでいってしまった。うっかりしているとこのままここで眠り込ん
でしまいそう……。
 「いた。いた」
 頭の方で声がしたので、わたしは体を起こした。
 「今日、行くんですって?教えてくれないなんて水臭いじゃない」
 仲良しの彼女は心外そうに口を尖らせた。
 「さよならを言うのは苦手なの」
 「もう……。寂しくなるわ。もう少し居させてもらえるようにできないものかしら」
 「止してよ。わたしだけが特別なわけじゃあるまいし。いつかまた戻ってくるわ」
 「随分先の話じゃないの。それまで、あなたが上手くやっていけるか心配だわ」
 「あの人たちがどんな風だかあなただってよく知ってるはずよ。大抵は善人でもないけ
ど、悪人でもないわ。何とかなるわよ、きっと」
 わたしは笑いながら立ち上がって、お尻の土を払った。
 「元気でね」
 わたしは笑ってうなずくと歩き始めた。

 野原の外れまでくると突然深い谷が現れる。濃い霧に覆われていて、ここからでは谷底
は窺えない。縁に立って息を吸い込むと、わたしは目をしっかり閉じて地面を蹴った。
 唸りをあげる風を肌で感じながらわたしは墜ちていった。薄れていく意識の中でさまざ
まな想いが掠め飛んでいく。――わたしはどんな人生を歩むのだろう。わたしは何と呼ば
れるのだろう。わたしはどんな人と愛し合うのだろう。わたしは……
 産声があがった。4月24日。また、一つのいのちが、この世界に舞い降りてきた。

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