【ひとこと】
Gが学生の頃の話ですから、ついこの間の話です^^;。ニュースステーションという番組が始まって間もない頃で、金曜日になると「夢の遊民社」という演劇集団がパフォーマンスする金曜チェックのコーナーというのをやっておりました(「貴方の××度チェック」と言っていたあれです)。Gはこのコーナーがお気に入りで、毎週金曜日の夜は鉛筆を持ってテレビの前に座ったものです。
で、このニュースステーションが終わった後、「たばこ1本分の物語」というキャッチフレーズの「ハートカクテル」という番組がありまして、金曜チェックの惰性でよく見ておりました。わたせせいぞうのイラストに合わせて5分間(←たばこ一本分)のショートストーリが語られる趣向の番組でしたが、トレンディー・ドラマの先駆のような洒落た話が多くて「かっこいいなぁ」と思ったものです。
で、例によって制限時間2時間の習作で「ハートカクテルあじ^^;」の物語をと、書いたのがこれです。(かれこれ、1×年前の作品です)
Yes but No
「オールド・テイラ−」
カウンターに座って進一は、いつものを頼んだ。
「アタシ、ジン・タニック。」
隣のキャサリンが片言の日本語で注文する。
「ドウシテ、タシロノコト好キダッテ云ッタノ。」
キャサリンは、進一の顔をのぞき込むようにして尋ねた。
「実際奴のことが、好きだからさ。」
「ウソ、時間ニルーズナ奴、嫌イッテ云ッテタジャナイ。」
バーテンが黙ってグラスを並べる。
「うん。だけど、彼は人の痛みの分かる奴なんだ。友人のことを本当に思い遣れる。」
「ワカラナイナ。Yesナノ、Noナノ。」
キャサリンは、少し目を細めてグラスを口にはこんだ。進一の買ってやったビードロ細工の
イヤリングがゆれる。
「Yes or Noかい。君の国の人はそれが大好きみたいだね。Yes but Noじゃだめかい。」
「オカシイワ。YesダッタラYesダシ、NoダッタラNoヨ。」
答える前に進一は、ストレートのバーボンを一口ふくんだ。
「田代が嫌いだと云ってもいいよ。でもそれは、好きだって云うよりずっと大きな嘘だ。大概
の物事にはいいところと、悪いところがあるだろ。だから、僕らの国ではどっちつかずがよく
使われる。それは、世の中も人も悪いところばかりじゃないと信じていたいからなのかもし
れないけれどね。」
云って、進一はふっとキャサリンの方を見た。じっと見つめる彼女の瞳と出会う。
「アタシノコト好キ。」
「Yes and Yes。」
進一の指がガラスのイヤリングをはじく。キャサリンの暖かな手が彼の手に重ねられ、そし
て、彼女はにっこりと笑った。
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